ミスティクスの美しいエース。ドラフトされたチームからの移籍、その背景。WNBA独自の選手を縛るルールとは。

ワシントン・ミスティクス
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大統領直属のスポーツ、栄養に関する諮問委員会の副委員長に任命されたElena Delle Donne(エレナ・デレダン)選手。

その難しそうな名前の役職については簡単に以下にまとめています。

前回はデレダン選手が名門校のUConnを2日で去りバスケをやめた過去から、転校先の弱小大学を強豪へと変貌させ、WNBAに入るまでご紹介していきました。(見ていない方は以下から)

今回は、WNBAに入った後、2017年に移籍(トレード)した背景や、WNBA独自のルール、移籍後のチームでの優勝を書いていきます。

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エースとして率いたチームからの移籍

ドラフト〜大活躍、チームを強豪へと変貌させる

色々あった大学時代(強豪大学から逃げ出し、燃え尽き症候群になった。詳しくは上の記事参照)を終え、2013年にシカゴ・スカイに全体2位に指名され、入団。

Getty Imagesより

こちらはドラフト時の写真。中央はリーグをナンバー1センター&現在ロシアに拘束され心配な、Brittenry Grinder(ブリトニー・グライナー)選手。右はSkylar Diggins-Smith(スカイラー・ディギンス・スミス)選手。3選手ともにアメリカ代表かつリーグを代表する選手なので、この年のドラフトがすごい年だったことがわかります。

デレダン選手の過去はバスケ界では有名で、それを心配したシカゴ・スカイのフロント陣から、入団後に逃げ出したりしないか、という確認があったよう。それに対してデレダン選手はその際に「100%コミットしている。絶対に起こらないと約束できる」と答えたとのこと。

入団後は期待通りかそれ以上の活躍を見せ、初年度の2013年にルーキー賞とWNBAセカンドチームの受賞。オールスター選出を達成。それ以降も2015年のリーグMVP、WNBAファーストチーム、得点王を含め、オールスターや平均得点の上位の常連として活躍を続けていました。

チームとしては、デレダン選手が加入した2013年にプレーオフに初出場。その後、同選手が在籍した全ての年においてプレーオフに出場しています。

プレーオフでは、2013年はセミファイナル、2014年はファイナル、2015年はカンファレンスセミファイナル、そして2016年はまたセミファイナルでそれぞれ敗退しています。

移籍の背景。WNBA独自ルール「Coreルール」とは?

チーム自体は強くなり、プレーオフには連続で出場していましたが、なかなか優勝できない年が続きました。

2016年のプレーオフにおいては、デレダン選手は右手親指の怪我による手術で欠場しています。その敗退後のオフシーズン、デレダン選手はチームにトレード希望の意向を伝えます。

これには背景がありました。

ドラフト1巡目で指名されたルーキー契約の4年目が終了すると「制限付き」フリーエージェント(以下FA)となります。

【制限付きFA】
ある選手がFAになって他のチームと契約まで至る際に、前所属のチームが同じまたはそれ以上の条件を提示した場合、その前所属チームが優先的に契約ができる

選手としては移籍先は自由に選びたい、交渉したいわけですから、この状態だとせっかく他チームと交渉しても、移籍できない可能性があるわけです。

デレダン選手が1年延長契約をシカゴと結んでいれば次の年には制限なしFAになっていました。

しかし!それを待てない理由がWNBAにはあります。

それは「Coreルール」というWNBA独自のルールです。

オフシーズンに自チームのFA選手をCore指定することで、その選手が制限なしFAだろうと関係なく自チームに残留させることができる(移籍ができなくなる)システムです。

1チームあたり1回のオフシーズンで1人しかCore指定できません。また、1人の選手に対してキャリアを通じて3回までしか行使できないと定められています。その指定があると1年のスーパーMax金額の契約(それ以上にするかはチーム選手間の交渉次第)となります。

スーパースター選手がCore指定されるってことだね

そうです。つまり、デレダン選手が「制限なしFA」権利を得るためにもう1年シカゴと延長契約をし、「よーし制限がなくなった!自由に移籍先を選ぼうウキウキ!」となったと思ったら、そのCoreルールがあるためその後最大3年チームに残留しなければならない可能性があるわけです。(その後連続3年、3回行使されるかもしれないので)

つまり、他のチームに移籍したいスーパースター級の選手からすれば、制限つきFAと変わらないかそれ以上にタチが悪いわけですね。

その状況をさけるためにデレダン選手は移籍の意向をチーム側に伝えたとのこと。その頃のインタビューで「選手がもっと自由に移籍できるようにするべきだと思う」と語っています。

デレダン選手がチームにトレードを要求した際、「もしトレードされない場合も、シカゴの一員としてプレーはしない」ことをチーム側に伝えていました。

シカゴのチーム側も理解を示し、ミスティクスとのトレードが決定。(チームとしてはそれを飲んだ方がプレーしないデレダン選手の代わりにトレードで選手を獲得できますから)

デレダン選手1人に対して、Stefanie Dolson選手、Kahleah Copper選手、2017年のドラフト2巡目指名権というトレードが成立しました。(その後2021年にシカゴも優勝し、このトレードに関わったドラフト指名権以外の全員が後々優勝することになるという面白いトレード)

そもそも移籍したいという気持ちになった理由は?

移籍の背景はわかりましたが、そもそも移籍したい、このチーム嫌だ!となった理由はなんだったのでしょうか。

彼女の書籍の中でその理由を感じることができます。

Bitly

2010年から2016年までスカイのヘッドコーチだったPocky Chatman(ポッキー・チャットマン。2022年はシアトル・ストームのアシスタントコーチ)に代わり、2016年にAmber Stocks(アンバー・ストックス)氏が新しいヘッドコーチとして迎えられています。

デレダン選手加入後に作ってきたプレーオフ常連チームから、さらに上つまり優勝を狙うチームづくりをするという姿勢のあらわれでした。

それに対して書籍の中で「なにか違う。私が目指すものではないとどこかで感じた」と書いています。

そしてドラフト時にシカゴのチームに対して答えた「100%コミットしている」という言葉についても、「本当は完全にコミットしていなかった。まさに大学時代を思い出させらた。自分はこの組織に必要な情熱を持っていない。」と語っています。

さらっと結構衝撃的な内容・・・

また、大学時代と同じようにシカゴという地が、海外のような変な感覚だったことについても書かれ、少なからずホームシックまでいかないまでも、慣れなかったのではないかと予想されます。

チームを強豪へと成長させ、プレーオフ常連になったことで次は、誰からも優勝だと期待される状況。そして慣れない地。大学時代に逃げた時ととても似ている気がします。(「逃げる」という表現はご本人の口から出ている表現です。)

大きい期待をされることが大きな負担となってしまうんでしょうね。精神的に強くないというのか表現に困りますが、注目されたくない方なんだなと思います。

実はそれが日頃の彼女のインスタからも感じ取れます。

2020シーズンはコロナ関係で欠場、2021シーズンは腰の怪我と2年続けて出場が限られていました。2022年は復活の年なので、復帰に向けてワークアウトをされているようなのですが、その様子を本人のインスタからは全く見せないんですよね。

大学時代に燃え尽き症候群からのカムバックの際も人知れずシューティングを開始していたというエピソードがありますし、そういった人に頑張っているところを見られ、それによって自分に対して期待が高まってしまうのが嫌なんでしょう。

身体にカッピングの跡があるのでワークアウトしているのは間違いないと思うのですが。(マニアックな視点ですね^^;)

Bitly
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現所属ワシントン・ミスティクスへ

2017年から加入したミスティクスでは、スカイでのデビューと同じように最初に出場した試合でチーム最高の26点を挙げチームを勝利に導いています。その後、足首や親指の怪我で数試合欠場しながらもチームはプレーオフへ。

チーム創設以来初となるセミファイナルに出場し、そこでその年優勝をするミネソタ・リンクスに敗れています。

2018年には歴代もっとも少ない試合でWNBA通算3000得点を達成(148試合)。オールスターにも選出されるなど、活躍を続けました。プレーオフに出場し、チーム初のファイナルに進みながらも今度はシアトル・ストームに敗れています。

2017、2018年とベルギー代表活動などでフル合流できなかった、若いながらもチーム要のEmma Meesseman(エマ・ミースマン)選手が2019年にはフル合流。

それもありチームはリーグ一位の成績を収め、デレダン選手自身もリーグMVP、WNBAファーストチームを受賞、フィールドゴール%1位を達成しています。

プレーオフに進出し、キャリア3度目のファイナル出場、背中の怪我をしながらもプレーを続け、ついに優勝をしています。

シカゴ・スカイ、ワシントン・ミスティクスとどちらのチームも徐々にチームを強くして、ファイナルへ。そしてミスティクスでは優勝と、成長していくのが素晴らしいですね。

そして、世界が変わってしまった2020年。コロナの流行によってそれまであまり語られてこなかった彼女の悩み、苦しみが明らかになります。

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最後に

今回最後の予定だったのですが、予想外に長くなってしまいましたのでもう一度区切ります。

次回こそ最後です。

彼女のご病気について。彼女は1日に64錠もの薬を飲む生活をしています。その理由、どんな苦しみがあるのか書いていきます。

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