大統領直属のスポーツ、栄養に関する諮問委員会の副委員長に任命されたElena Delle Donne(エレナ・デレダン)選手。
その難しそうな名前の役職、そして大学時代の逃走劇、WNBA加入後の移籍については以下をご覧ください。
特に2つ目の名門UConnを2日で去りバスケをやめた過去〜3つ目のWNBAでの移籍は彼女のメンタルやどんな人なのか、ということが垣間見えるので興味深いと思います。
さて、時間があいてしまいましたが(前回からほぼ1ヶ月!🙇🏻♀️)、
今回はミスティクスに移籍した後の2019シーズンと、その後のシーズンつまり新型コロナ感染症が流行中のシーズンからです。
それまで詳細が明るみに出てこなかった彼女のご病気。実は彼女は1日に64錠もの薬を飲む生活をしています。10代の頃から抱える病気について、コロナ禍で本人から語られたその病状と苦しみはWNBAで大活躍するキャリアを過ごす姿からはまったく想像できないものでした。
2019年の優勝
2012年にミスティクスのヘッドコーチ兼GMに就任したティーボーコーチのもと、チームは年々成長。ドラフトやトレードでチームの成功に必要な選手を集めていきます。
- 2013年に後のチームの核となるセンターのエマ・ミースマン選手をドラフト指名。
- 2015年、ドラフト2巡目ではありましたが、ナターシャ・クラウド選手を指名。
- 2017年にデレダン選手、その後も他チームからの獲得やその後チームにフィットし活躍する新人の獲得にも成功。
ティーボーコーチの凄さはこちらをご覧ください。
そして2019年、すべてのピースが揃い、優勝を成し遂げます。
優勝をかけたファイナル。デレダン選手個人としては3度目のファイナル進出。ファイナルのシリーズでは2021年にシーズンの大半を欠場する原因となった椎間板ヘルニアを抱えながらのプレーでした。
(個人的にこのファイナルはとても印象に残っています。もちろんファイナルだから気合いが入っているんですが、どこか鬼気迫るようなプレーぶりでした。)
そして優勝。その際の写真です。見たことがある顔が何名も。感慨深い(←何も関わっていない人が言う笑)
2020年 Covid-19により特殊なシーズンに
もはやいつから流行していたかすら分からないほど生活の一部になってしまっている新型コロナウィルス感染症。(実際は2019年の12月以降流行)
その影響で、2020シーズンのWNBAはフロリダのIMGアカデミーというスポーツ総合施設に全チーム、その関係者が集まり厳戒態勢のもと開催されました。
通常通り参加する選手もいましたが、欠場を表明する選手が多かったシーズンでした。
デレダン選手が抱える病気:ライム病
デレダン選手は2008年の高校生の際にダニに噛まれたことが原因でライム病になったと2014年に公表しています。
厚生労働省によるライム病の説明は以下の通りです。
ライム病の定義 マダニ(Ixodes属)刺咬により媒介されるスピロヘータ(ライム病ボレリア;Borrelia burgdorferi sensu lato)感染症である。 臨床的特徴 感染初期(stageI)には、マダニ刺咬部を中心として限局性に特徴的な遊走性紅斑を呈することが多い。随伴症状として、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、全身倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともある。紅斑の出現期間は数日から数週間といわれ、形状は環状紅斑又は均一性紅斑がほとんどである。 播種期(stageII)には、体内循環を介して病原体が全身性に拡散する。これに伴い、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られる。 感染から数か月ないし数年を経て、慢性期(stageIII)に移行する。患者は播種期の症状に加えて、重度の皮膚症状、関節炎などを示すといわれる。本邦では、慢性期に移行したとみられる症例は現在のところ報告されていない。症状としては、慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性関節炎、慢性脳脊髄炎などがあげられる。
デレダン選手は複数のインタビューで自身の症状についてこのように言っています。
偏頭痛、寝汗、酷い疲労感、筋肉痛、関節痛、インフルエンザのような症状、いつも調子が良くない。身体が運動後にリカバリーしない。
症状が出始めて、18時間睡眠をとっても症状が改善せず、両親にしんでしまうかも、と伝えたそう。最初にかかった病院ではそれが一体何なのか判明せず、何か分かるまで複数のドクターにかかったそうです。こんな症状をかかえて戦っていたなんて、活躍する姿から誰が想像できるでしょうか。
症状には波があるようで、2017年のオフシーズンにそれまで、家族と一緒にいる時間を大切にしたいという理由で一度もプレーしていなかった国外のリーグ(中国)に挑戦したのですが、ライム病の再発症ですぐに帰国をされています。
リーグ、リーグドクターの判断
デレダン選手は自身がライム病を抱えていることからのコロナによるリスクを鑑み、リーグに2020シーズンは健康上の理由からOpt-out(プレーしないことを選択)すると伝えます。その際にデレダン選手はかかりつけのドクターにライム病についてのフルレポートを作成してもらい、リーグに提出したそうです。
しかし、なんとリーグとリーグ選任のドクターの答えは、ライム病ではリスクが高いと判断できず、Opt-outは認められないという判断だったのです。
デレダン選手のレター:An Open Letter About My Health
これまでの記事を見ていただいた方や、これまでの試合での姿や雰囲気から、なんとなく感じるかもしれませんがデレダン選手はあまり注目されるのは嫌というタイプのよう。しかし、この判断にはデレダン選手も声を上げます。
これが有名になったThe Players Tribuneというメディアの「An Open Letter About My Health」(私の健康状態についての公開レター)です。
その中で彼女は1日に64錠(朝食前25錠、朝食後20錠、夕食前10錠、就寝前9錠)もの薬を飲んでいることを公開しています。
※それ以前に、シカゴに在籍していた際にも他のインタビュー等で1日に50錠以上を摂っているということを公開していたようですが、コロナもあいまってこちらのレターはより多くのメディアが取り上げた印象があります。
レターには、64錠を摂取することでやっとプレーできる身体を維持できる、普通の日常を送ることができるという話から、コロナが流行し始めたとき、免疫の異常を抱える自分に対しては命の危険だと思ったことが冒頭に書かれています。
そして、リーグからOpt-outは認められないという判断をされたこと。それは彼女にとって “risk my life or forfeit my paycheck”「命の危険を冒してプレーする」か「(生活がかかる)給料をもらわないか」ということを意味していると言います。
自身の夢であり7年間血と汗と涙を流し必死にやってきたWNBAというリーグに「あなたは間違っている」「病状について嘘をついている」と言われたようで心を痛めたと言います。
デレダン選手は同レターで何をしたいと発表しているわけでなく、ライム病についてより多くの人に知ってもらうためにもっと発信するべきだと感じたこと、自分よりも悪い状況にいる人が世の中には多くいて、それらの問題にも共に取り組むべきだと感じたこと、そして3つ目にライム病から学んだ一番のこととして、この世の中には自分が知っている範囲以上に知らないことが多くあることを挙げています。
若い頃は物事にハッキリした答えを求めがちだけど、世界には分からないことが多くある。このレターを公開するまでで12年間(今で15年ぐらいになるでしょうか)この病気と付き合ってきているけど、まだ知らないことがあると。
そして、自分ではない他の人がどんな状況にあるか、それまで何が起こっていたかは、他の人には完全に分かることはない、そんな他の人との接し方を見つめ直し、より耳を傾けることで学ぶことができる、こういった考え方を持てるのではないか。
いつかWNBAも同じようにそんな考え方をしてくれることを望む、そういってレターを締めくくっています。
チームの措置とその後
リーグからの判断の後、ワシントン・ミスティクスがデレダン選手が全試合を欠場するとしても同選手の給料をフルで払うことを表明し、デレダン選手も2020シーズンの欠場を決定しました。
チームとしてはエースの不在ながら9勝13敗と善戦。現メンバーのハインズアレン選手がデレダン選手の不在をカバーする大成長を遂げたシーズンでした。プレーオフに出場はしましたが、1回戦で敗退しています。
また、デレダン選手は2020年に椎間板ヘルニアの手術を受けています。その手術後の回復が思わしくなく、翌年の2021年は3試合のみの出場にとどまっています。
2022シーズン
そして、2022シーズン、誰もが待っていたエースのカムバック。
開幕から絶好調でMVPの呼び声すらあります。
復帰までのリハビリは想像を絶するものだと思われます。
背景を知ると、一つ一つの表情や動きを見て、いま辛くないかな、とか、体調は大丈夫かなと心配してしまうのですが(みなさんもそんな目になっちゃったらスミマセン🙏)、インタビューなどによると現状は問題ないようです。
チームとしても先日のミネソタ戦のように、移動を含むアウェイゲームは数回休ませる意向のようです。
一般のフライトでの移動からくるコロナ感染や、長時間の移動による術後の身体への影響をリスク管理をしなければいけないということでしょう。
最後に
エレナ・デレダン選手ストーリー。もうこれは映画化決定ですよね🥲
知れば知るほど凄い方で、大きな視野を持っている方。
身体のこともそうですし、大学の際の行動も含めて、メンタル面でもすごく繊細でもろい方で、応援したくなってしまう。優しくて、謙虚、他の方への敬意を忘れない方、というのが伝わってくるんですよね。(妄想しすぎ?)
ということで、怪我からの復帰ということだけではない休んでいる背景を皆さんに知っていただければ幸いです。
デレダン選手の波乱万丈のストーリーはひとまずこの記事で終了です。
お読みいただきありがとうございました。
コメント
はじめまして、丁寧で、かつ読み応えのある記事でした。ありがとうございます。
町田選手のファンでミスティクスの試合を見るようになり、チームメイトのことを知りたくなったところにSLUMのカバーのツイートを見てどんな背景があるのかとても気になっていました。
これからも色々勉強させてもらいます!
はじめまして!コメントありがとうございます!この方の人生は本当にドラマチックで涙 今後もWNBAや選手に興味を持っていただけるようなコンテンツを書いていこうと思っていますので、引き続きTwitterやブログ見ていただければ嬉しいです😊